
中二病に向き合う
『マイブラザー』
草野たき ポプラ社21.11
石田海斗(かいと)は中二。大手企業のエリート研究者であった父は、突然、退職して遠い千葉のパン屋に修行に入る。母は全てを受け入れ、海斗と弟総也(5歳)と共に暮らしを支える。海斗は市立中学への進学を諦め、塾もやめる。その憤懣を弟の面倒をみるということで自分を追い込む。総也は兄への依存度を高めあまえる。総也を負ぶって学校に行く場面から始まる。「なにごとだ???」という疑問から、読者はその展開に引きこまれる。
幼友達の健吾はサッカーへの夢をあきらめ、宙ぶらりんな生活を送っている。勉強一筋かと見えた倫太郎も葛藤を抱えている。そこに、保育園が同窓だった不登校の七菜(なな)とミュージシャン志望の彩音(あやね)がからむ。この5人がそれぞれの進路の悩みを(中二病)越えていく物語だ。
海斗が父の本音を聴きだそうと遠い千葉のパン屋まで訪ねていく場面がいい。これに健
吾、倫太郎がつきあい、その長い往復の旅の中で心に抱え ていることを語り合う。総也の
保育園発表会に卒園者として特別演奏をする。そしてそれぞれの進路を見いだしていく。
テーマは「中二病」を乗り越え、自分の道を見いだしていく思春期の物語だ。「マイブ
ラザー」というタイトルもいい。弟を意味し、また兄を意味する。「子どもって、嬉しかったら笑うし、悲しかったら泣くし、怒ったら暴れるし……でも、私たちだって、まだ全然子どもじゃない? なのにいつから、人からどう見られるかとかばっかり気にするようになっちゃったのかな」(彩音)すると、七菜が言った。「そのことに気付いたから、私は学校に行くことにしたんだ。私、これからは体当たりで生きる」 そんな七菜の言葉に、彩音が大きくうなずく。「そうだね。私も変なプライドは捨てて、もっとまっすぐに生きよう」 …… 七転八倒したり、右往左往したからこそ、まぶしく見えるなら、回り道も無駄ではなかったということだ。 そう、単純にはいかないという声もあるだろう。しかし、作者はこの難しい少年少女たちとしっかり向き合って描いている。その真摯な姿勢、語りに拍手を贈りたい。黒木秀子さんのアニマシオン研究会4月テキストに指定されていたので、早速借りて読んだ。とてもいい選書だ。(岩辺)
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