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今こそ読もう、この一冊!!113

『アポリア ーあしたの風ー』

 いとうみく 童心社 2016年

 舞台は3・11から24年後の2月、東京。中学二年生の一弥(いちや)は、不登

校で引きこもりだった。母の志穂は、学校での二者面談のため、仕事を早退し、家で

昼食をとっていた。

 そんな折、東京は突然大地震に見舞われる。一弥のいた2階は崩落し、1階にいた母は瓦礫に埋もれてしまう。一弥の呼びかけに、「コン、コン」と応答する母だったが、直後、大津波警報が発令される。それでも母を助けようともがく一弥は、通りがかりの男、片桐に無理矢理かつがれ連れ出される。瓦礫の下に母を残したまま…。「こいつが見殺しにした。こいつがかあさんを殺した。」恨みと憎しみに駆られる一弥だったが、「おれが学校に行っていれば」「おれのせいだ」と、自責の念に苛まれていた。一方、片桐にも、どうしても一弥を助けたい理由があった。一弥の視点だけでなく、叔父の健介、片桐と、群像劇かのように物語が進行していく。

 仙台出身の写真家、宍戸清孝による、東日本大震災の記録写真がページの端々に挿入され、かの震災の凄惨さを伝える。サバイバーズ・ギルトを抱えながら、それでも明日へ向かって生きようとする人々。己の弱さを自覚し、生きることの意義を探す。絶望の淵にあっても生きる私たち人間の、それが強さなのかもしれない。(名鏡琢人)