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今こそ読もう、この1冊!!90

『生きづらさはどこから来るか』

石川幹人著 ちくまプリマー新書 2012年7月

 「ちくまプリマー新書」は入門書という名にふさわしい本で、中高生以上を対象にわかりやすく書かれた良書が多い。自然科学から社会科学、文学関係まで分野が広い。『生きづらさはどこから来るか』は進化心理学という分野から若者の悩みに答える本だ。悩みの相談に答える本はよく出されているし、新聞でも識者が読者の悩みに答える欄がある。それに比べると、本書はその悩みに答えると言っても直接、具体的に悩みに答えるというのではない。進化心理学という科学から、人間の生きづらさの根本問題を解いている。人間は200万年かけて生きづらさを感じる「意識」をもつように進化してきたのだと。だから人類が進化してきた歴史にその理由があるのだと。悩むことはよくないことだ、その人が弱いからだという意見もあるが、そうではなく悩むのはとても人間的なのだと思えて楽になる。私が本書で衝撃的だったのは双子の研究からの遺伝の強さの結果だ。音楽やスポーツの能力は遺伝の寄与が大きいが言語は大きくないと言う。それだけ言語環境、教育環境が大きいという。私たちが子どもたちに読み聞かせやアニマシオンをやる意味は大きいのだ。本書では進化論や人類学、チンパンジーの本など多くの本が登場する。これらも読みたくなった。

(笠井英彦)