1冊の本の向こうに・・・
1冊の本の向こうに見えてくる風景が幾つもある。『まどさんの詩で時間割』を読みながら想い描くことが出来る風景がある。まどさんの詩を味わいながら、その読者のひとり一人が想い描く景色があり、物語があるのではないだろうか。それほどに、まどさんの詩の世界は広がっている、そして、はるか彼方とすぐそこが重なっている。ひさしの下のくもの巣にかかったカとその向こうに見える星がまぎれてしまうように…。
まどさんの詩を読んだ岩辺さんが、そこに重ねている教室の景色、子どもたちや父母のささやかな物語を 私たちはいまこうして読むことが出来る。そうやって読みながら、私たちもまた、自らの暮らしや教室の物語を重ねることが出来る。そんな豊かな時間がⅠ冊の本の向こうにある。
1冊の向こうにもう一つの時間割があった。それは「放課後の時間割」と言ってもいいかもしれない。月に一度、岩辺さんが選んだ、まどさんの詩やエピソード…、まどさんについて語られ、書かれてきたことについて聞かせてもらう時間だった。ときには、まどさんと阪田寛夫さんについて語り合ったこともあった。僕は阪田寛夫さんが『まどさん』を書くために取材した10数冊のノートの山を思い出していた。*1 積み重ねられたノートの向こうに、阪田さんの時間があった。まどさんの詩「おとうさん」について語る岩辺さんの話を聞きながら、僕は『先生のつうしんぼ』*2 の、コロッケを買う場面を思い出していた。岩辺さんは語りながら、もう一度自分に問い直し、何かを確かめていたのだろう。そんな時間が積み重ねられてきたのだろう。1冊の本が私たちの手に届くまでに、どれだけの人が関わってきたことだろうか。かもがわ出版の三輪さんや校閲や校正にあたった山田さん、イラストやデザインの担当者…。そう、誰よりも子どもたちと保護者、教職員の仲間たち*3 …。そして…、この本を手にするであろう読者のみなさん…。1冊の本の向こうに世界が広がっていく。
*1 まどさん100歳展(2009年3月28日~6日 銀座教文館9階ウェンライトホール)
*2 宮川ひろ『先生のつうしんぼ』偕成社
*3 本の一番最後の奥付にある「謝辞」が素敵です。(泉 宜宏)
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