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今こそ読もう、この1冊!!77

『少年弁護士セオの事件簿6 仮面スキャンダル』

ジョン・グリシャム=作、石崎洋司=訳 岩崎書店 2016.11

 セオ(セオドア・ブーン)は13歳。将来の夢は法律家。地域の裁判所にも入り浸っていて、法律のことに関してはそこいらの弁護士にも負けないほど。彼の住む街に起こる様々な事件に深くかかわっていく。おもしろくて、次々と読んできた。そして、いよいよ6巻だ。7巻が昨年末に出ている。やっと発刊のペースに追いついてきた。 

 表紙絵は、テストを受ける生徒たちだ。8年生が受ける州の統一テストだ。1週間にわたる全科目テストで、高校のコースの割り振りが決まる。上10%はいわば「特別進学コース」、下10%は「スローコース」。真ん中が「普通コース」というわけだ。

 ストラテンバーグ市には3つの中学があるが、経済的な困難地区にあるイースト中学が各段に低い得点になっている。地域の格差がそのままテスト結果になっているのは、日本も同じだ。だから、統一テストには根強い反対論が市民の中にあるが、州はこのテストの実施を前提に助成金を出している。

 常に全学科オールAのセオは、誰もが「特進コース」と信じていたが、1点差で「普通コース」となってしまう。さて、そこからが事の始まりだ。そのイースト中学のテスト結果がいつもよりはぐっと上がったのだ。その背景に「不正」が明らかにされていく。学年担任の複数の教師たちのかかわりがあったのだ。カバー裏表紙は額を寄せて何かを操作している5人の教師が描かれている。彼らの意図は……? (そうそう、カバーの表裏の絵からストーリーを推理するのもおもしろい。細かな仕掛けがなされている) 日本でも、このコロナの現状でさえ、全国学力テストや地域の統一テスタが実施されている。厳しい批判が湧きあがらない。「指導要領の実施や学力の状況を調査する」のが目的ならば、抽出テストで十分なのだが、悉皆テストを止めない。ストラテンバーグ市はどういう結論を出すのだろうか。他人ごとではない展開。セオも大活躍だ。……と、今回もここまでにとどめよう。高学年から中学生はワクワクと読み進めるんじゃないかな。アメリカでは、裁判や法の仕組みを学ぶ教材としても使われているということだ。「訳者あとがき」で、いつも日本との仕組みの違いなどを分かりやすく解説してくれている。1巻からしばらくは、貧困地区やその住民などへのやや「差別的な」と思われる表現があってひっかかったが、それもアメリカの現状なのだとも思った。次第にそれも収まってきたように思われ、すいすいと読んでいる。(岩辺泰吏)