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今こそ読もう、この1冊!!64

「フォスターさんの郵便配達」

エリアセル・カンシーノ著 宇野和美訳 

偕成社 2010年発行

 舞台は1960年代、フランコ独裁下のスペイン南部の小さな漁村。少年ペリーコの母親は2年前亡くなり、漁師の父親は子どもをほったらかし。もうすぐ中学生になる歳なのにベリーコは学校へも行かず、やる気もなく、いいわけと嘘ばかりの毎日です。ところがある日、村の唯一のイギリス人である風変わりなフォスターさんの帽子をひろいあげたことがきっかけで、ベリーコはフォスターさんの郵便物を、郵便局から家まで運ぶ仕事をもらいます。もう一人、村はずれに正体不明の外国人イスマエルという人がいます。人とほとんど関わらずに生活しています。治安警察の警官がイスマエルを追いかけ探っています。 一方、父から預かったお金を落としてしまったペリーコは、偶然、村の青年の船の中に新札の束を見つけて、無くしたお金の替わりに、一枚だけ失敬しました。それが警察が躍起になって探している偽札でした。

 話が展開する背景に、1975年までつづいたスペインのフランコ独裁の抑圧体制があり、一見平和な村に何かが隠されている現実にペリーコは少しずつ気づいていきます。自由を奪われたこの時代のスペインで、ひっそりと、でも必死に、何かを守ろうと懸命に生きていく人達の様子がベリーコの目線で書かれます。嘘もつくし悪い事もするけれど、悩み、考え、自分の目で人や物事を見ていく素直な感受性のペリーコが印象的です。フォスターさん、イスマエルなど、ちゃんと子どもと向き合う周囲のおとなも魅力があります。(廣畑)

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コメント: 1
  • #1

    ゆうた君 (木曜日, 04 11月 2021 17:04)

    丁寧な描写で、「普通の人びと」の中の時代が描かれているとおもいました。