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今こそ読もう、この1冊!!61

『銀河鉄道の父』

  (門井慶喜著 講談社 2017年発行)

 宮沢賢治の父政次郎は、岩手県花巻で先代から営む質屋の主人でした。尋常小学校

の成績はトップでしたが、父親から「質屋に学問はいらね」と言われ進学はしませんでした。

 この小説は、政次郎が旅先で息子の誕生を告げる電報を受け取るところから始まります。政次郎は、家長たるもの、家族の前で生の自分をさらすわけにはいかぬ。常に威厳をたもち、笑顔を見せず、嫌われ者たるを引き受けねばならぬと思っていました。それが政次郎の信条でした。でも初めて我が子を見た時、あやしてやりたい衝動にかられます。「いいこ、いいこ、べろべろばあ!」。でも、このみどり児に対しても弱みは見せられぬ。 ところが6年後。賢治が発熱し赤痢と分かった刹那、政次郎の心の何かがプツンとキレました。見栄も外聞もなく、一気に「父でありすぎる父」になっていきました。政次郎はみずから病院に押し掛け、夜通し付き添いで看病する。温めたコンニャクで手当したり、汗を拭いてやったり・・・。石集めをする賢治に標本箱を買ってやった時も、自分が理解ある父親になりたいのか、息子の壁でありたいのか、自分でもわからない。賢治が中学への進学を希望した時も、政次郎の父親の反対を押し切って高等農林学校への受験を許可してやる。我ながらお人好しすぎると痛感しながらも「がんばれ」と言ってしまう。 岩手毎日新聞に賢治の詩と童話が掲載された日は、誇らしくて嬉しくて、妻と娘に、賢治の詩と童話を読み聞かせる。一方で、威厳をもった父であろうとしながら、気づけば、「父でありすぎる父」になっている。そんな父親像がほのぼのと楽しい一冊です。(廣畑)