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今こそ読もう、この1冊!!31

アフリカの雄大さが、都会で起きた小さな出来事から伝わってくる絵本

『ありがとうアーモ』

オーゲ・モーラ 三原泉訳 鈴木出版

 

(幼児から読めそう)

アーモが抱えているのは、お鍋らしい。

美味しいシチューができあがったのだ。「いままでで さいこうの ばんごはんに なりそう」切り紙を使ったシチューの湯気は、いかにも美味しそうで、ふわふわ外にただよっていく。そこで「トントントン」次から次から、ドアをたたく音が響き、人が訪ねてくる。想像通りの展開である。読者である私は、もう気が気ではない。心の中で「絶対なくなっちゃうんだから!せっかくおいしくできたのに!もう、あげちゃダメ!」と叫ぶ。

アーモとはイボ語で、女王様の事。女王たるもの、笑顔で訪ねてお願いする人を手ぶらで返せるわけがない。笑顔が見たいのだ。人を喜ばせたいのだ。

 というわけで、結局、お鍋は空っぽ。そして・・・。

 コロナの今年、心がガサガサしないよう、本を読み、人となるべく話すようにし、優しい心を失わないよう日々生活をしてきた。しかし、やっぱり大事な心を失っていたかな、と感じたのはこの本の最後の数ページである。

「とろーり とろとろ とくせいシチューは、もうないんだよ」というアーモに、みなは?絵本だから、当然の結末でしょ?と、言われそうなのだが、なぜか、心が温かくなる。ホッとする。人間っていいな!と改めて思う。貼り絵と思われる、紙のやわらかな感触、おおらかでアフリカを思わせる色使いは、人間が本来、信頼しあえるものであることを伝えてくれるかのようだ。アメリカの下町を思わせる家並みも素晴らしく表現されている。」

                                 (千田てるみ)