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今こそ読もう、この1冊!!30

『拝啓パンクスノットデッドさま』

石川宏千花(ひろちか)くもん出版2020.10

 非常に手荒なストーリーの紹介をすると、高一の少年が中二の弟と二人、たまにしか帰らない母に頼らず、バイトをしつつ、大好きなパンクでバンドを作りたいと試行錯誤していく。その中で、生きづらいこの世界で苦しむ同世代を見つめていく・・・ということになる。

 晴己兄弟を支えるのは、母親の若い時からの友人しんちゃん。しんちゃんが好きだったパンクにはまっていく兄弟。この「パンク」の世界が分からない。――「パンクロックは、70年代なかばにうまれたロックのひとつで、その衝動をむきだしにしたかのような音楽は、イギリス・アメリカを中心に、世界中の多くの(世間や大人に反逆心を抱えた)若者たちを熱狂させました」―

と、チラシに編集担当者の解説がある。

 いらだたないためには、あることを長い時間考えないことだと、すぐに切り替えて別のことへ関心を動かすことだと、弟の姿に学ぶ晴己が描かれているが、積もる苦しさは切なくなる。それにはパンクロックが似合うと言える。その世界の言葉はまるでわからないけれど、晴己と周辺の人物たちの抱える葛藤は現代的なものだ。

 一緒にバンドを組もうと呼びかけたギターをいつも抱えている同級生海鳴(みなり)が、実はギターは孤立しないための「擬態」なのだと、深夜の電話で晴己に語る場面が印象的だった。そうか、「擬態」という言葉が若者の「装い」を伝える言葉なのか…と知った。「〈自分だけが好きなもの〉が、お守りがわりだったころがあります。これさえあればがんばれる、と思わせてくれるし、みんなと同じようにできなくたって、みんなと同じ物が好きじゃないんだからしょうがないって思わせてくれたりする―この物語の兄弟にも、お守りがあります。それさえあれば、みんなと同じじゃなくたってだいじょうぶなんです。そんな二人の日常を、ちょっとだけのぞけるようにしてみました」と、作者は語っている(挟み込みチラシ)。 いつもは読まない世界の言葉だけれど、だからこそ、おもしろかったというか、共感深く読んだ。(岩辺泰吏)