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今こそ読もう、この1冊!!27

『レ・ミゼラブル』小峰書店

原作:ヴィクトル・ユゴー、再話:リュック・ルフォール、絵:ジェラール・デュボワ、

訳:河野万里子2012.3.2400円。

原作に立って 「道徳」教材としての『恩讐の彼方に』&『レ・ミゼラブル』

 6年の「道徳」教材に、「青の洞門」と「銀の燭台」が多く入っている。原作は菊池寛『恩讐の彼方に』と、ヴィクトル・ユゴー『レ・ミゼラブル』である。あらためて書いておこうと思います。

菊池寛『恩讐の彼方に』はネット「青空文庫」でも入手できる。私は中学生の時に、国語教科書で学んだ。教科書はもちろん全文ではなかったのだろうが、全文を読んだ記憶がある。そして、それなりの感動が残っている。改めて入手して読んでみた。無頼に生きてきた市九郎が僧・了海として悔い改め、危険な岸壁に洞門を穿って安全な道を通そうとする話だ。そこに、父の敵を討とうと探し回った実之助がやってくるが村人に止められて、一日も早く完成させて敵を討とうとするが、完成の時にはもはや了海への尊敬の念の方が

強くなっていたのであった、というストーリーだ。原作は短篇だ。読み返していくと、市九郎から了海への過程が前半の罪が丁寧に書かれることによって、了海が執念の如く掘り続ける思いが理解される。そして、奇人扱いしていた村人が20年近くしてやっとこの仕事に参加するようになる経過も語られる。そして、山場の実之助の登場。父の無念を晴らしたい青年実之助と洞門を通すことのみに打ち込む

老僧了海との心の交流が、この物語の結びとなって感銘を得る。実之助の葛藤がこの短篇の芯となっている。残念ながら道徳の教科書の教材は紙面の制限があって原作は刈り込まれ、「葛藤」を描かないで結末だけを伝えるので、共感を得ることができない。その部分を主人公の顔などをアップするなどして描いた挿し絵で補おうとしている。「銀の燭台」は、『レ・ミゼラブル』から抜き取っている。一夜の宿を提供したミリエル司教に銀の食器を盗んで去るという行為で返したジャン・ヴァルジャンを赦すこと。これから展開するジャン・ヴァルジャンの行動によってその意味が深められていくのだが、教材はミリエル司教の「深い思いやり(赦す)」だけを強調している。だから、国語教材の説明文読解を進めるような作業となりがちださて、膨大な『レ・ミゼラブル』を読み通している人は少ないだろう。ここに少年少女版としてまとめられた絵本版『レ・ミゼラブル―ファンティーヌとコゼット―』がある。教室で読み聞かせても数回連続でやれば十分できる長さだ。おすすめしたい。ジャン・ヴァルジャンを追跡し続ける刑事ジャヴェールのしつこさ。貧しさから娘コゼットを悪辣な宿屋夫婦に預け、働きに出るフォンティーヌを助け、コゼットを救い出そうと努力するジャン・ヴァルジャンを描いている。絵も丁寧でこの時代と人物像の理解を深めさせてくれる。表紙の少女がテーブルの下に身を潜め、まっすぐにこちらを見つめている。その前に半分のパンが置かれている。ここから話し合うこともできるだろう。まず、先生たちが読んでほしい。子どもたちに何を伝えるのか、自分の中で納得できるメッセージを持とう。(岩辺泰吏)