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今こそ読もう、この1冊!!17

『子ども白書2020』

日本子どもを守る会編

かもがわ出版 2800円

2020年8月15日

 2月27日、安倍首相による突然の学校一斉休校の要請から3ヶ月間学校は休校となった。長い教師生活で初めての事態だ。再開した6月からは、3ヶ月も会わなかった子どもたちとの出会いに戸惑い、遅れた授業を取り戻そうと必死になり、じっくり考えることなく7月末まで過ぎてしまった。これで良かったのだろうか。もっとできることはなかったのだろうか。私は『子ども白書2020』を読むことで、この3月からの事態を改めて振り返ることができた。

 『子ども白書』は、1964年以来、子どもたちが豊かに育っていける社会の実現をめざして発行し続けている本で、今年で56冊目となる歴史ある本だ。子どもたちが置かれている状況はどうなっているのか、子どもたちのために学校や医療、福祉、行政は何ができるのかなどを、研究者や医師、現場の教師や保育士、福祉に携わる方など幅広い立場の方々が原稿を寄せている。また、子どもに関わるその時々の問題をテーマにし、特集を組んでいる。今年の『子ども白書2020』は、特集が「希望の学校」。その中でも「コロナ 子どもクライシス」を緊急企画として組み、この観点が本書を貫いている。私が考えさせられたのは次の文だ。「学校は、あらゆる子どもとつながりをもつことのできる貴重な場であり、単に学習の場となっているだけでなく、家庭外の居場所であり、栄養のある食事を食べられる場所であり、子どもの危機に気づ

くことができるセーフティーネットの役割を果たしている地域の貴重な資源です」(阿比留久美氏p9)。

これは3ヶ月の休校明けで感じたことをよく表してくれている。6月、休み時間に楽しそうに語らう子どもたちの姿が印象的だった。学校は子どもたちが集い、教師とともに様々なことを学ぶ貴重な居場所だったのだ。では、学校再開後は何が必要だったか。「学校再開後の詰め込み教育が子どもたちにとってどんなに過酷なものとなるかを予想して、『本当の危機は学校再開後に訪れる』と警告を発している大人もすくなくありません。・・・そうさせないためには、教職員配置の拡充をはじめとする行財政面での条件整備が必須です」「子ども一人ひとりに寄り添った教育実践を進めるために教職員がお互いに理解し合い、助け合える関係が今こそ求められています」(勝野正章氏p37)という指摘はその通りだと思う。これは私も反省させられた。またコロナ禍での小学校や中学校の現場で奮闘した教師の実践はとても参考になった。さらに資料の「国連・子どもの権利委員会新型コロナ感染症(COVID-19)に関する声明」は、国際的視野から私たちに何が必要かを解いてくれる。

 本書が取り扱っているのは学校だけでなく、医療、スポーツ、司法、インターネットととにかく幅広い。また、若者や子どもたちの生の声も反映されている。その意味で、本書は全国の多くの現場で悪戦苦闘している教師を励まし、また幅広い知識を与えてくれる。この夏休み、現場の先生にぜひ読んで欲しい一冊だ。(笠井英彦)

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コメント: 1
  • #1

    岩辺泰吏 (水曜日, 05 8月 2020 13:04)

    毎年の「子ども白書」とは味わいの違った今年の白書。笠井さんが現場らしく紹介してくれた。告発、記録であるとともに、指針でもあることを笠井さんは指摘している。いろいろなところで、これをテキストにした議論が進むことを期待したい。