10月銀読書会 2020.10.29日比谷図書館11名参加

『列車はこの闇をぬけて』ディルク・ラインハルト著 天沼春樹:訳 徳間書店 2017.12月初版

▷作品について

 第55回読書会で中南米のマラスという少年ギャンググループを現地取材したお話を聴く機会があった。講師は『マラス 暴力に支配される少年たち』集英社刊の著者工藤律子さんである。その中南米の少年たちの境遇を生々しく彷彿させる物語である。

あらすじ

14歳のミゲル(ぼく)は合衆国に働きに行ったきりの母さんを追って、故郷グアテマラに妹を置き、合衆国を目指す旅に出る。グアテマラ国境で偶然出会った4人の若者と一緒に貨物列車の屋根に乗りメキシコを北へ縦断する。停車する駅ごとに金銭目当てに検問をかける警察や警備員、身ぐるみ奪う山賊、身代金目当てに監禁し殺害する残忍な麻薬組織セタス、嵐、飢え、極寒、酷暑など次々に危難に襲われる。途中インディオのエミリオは、山賊に縛られたまま列車から落とされて別れるが、様々な苦難をバイタリティーと機知で切り抜けながら若者達は、互いに信頼し合う仲間になっていく。警官に立ちはだかり守ってくれた教会の神父と信者達、かくまい、難民センターに送ってくれた農家の人など善意の人々の存在もある。難民センターの女性所長の計らいで、最年少のアンジェロは、故郷に戻る決心をする。何度か列車の旅を経験してきたリーダーのフェルナンドと、少女ヤスとミゲルの3人は、メキシコと合衆国との境界の町ヌエド・ラレドに向かう。(結末はお楽しみに!)

▷話し合い

 テーマについては、「世界で最も危険な旅」とされるこの列車の旅で命を脅かされながら、それでも希望を失わず苦難を乗り越えていく生きる力。過酷な状況の中で友情を育みながら生き抜く力強さに希望を見出す。

キーワードは、子どもたち、希望、友情、生きる力などと話し合った。

毎年およそ30万人といわれる不法移民のうち、メキシコから南のグアテマラ、ホンジュラス、エル・サルバドルなどからアメリカ合衆国への国境を超えようとして拘束された未成年者の数は、201310月からの半年間で、約五万二千人だったそうだ。本書をルポルタージュではなく、フィクションとしてこの少年たちの立場・視点から書くことで、リアルに訴える力がいっそう強くなっている。

 

 シリア難民の子ども達など悲惨な状況もあること。日本での、厳しい難民受け入れ制度と受け入れの多いドイツとの比較など今日的な状況も出された。(記録:滝脇れい子)

銀読書会9月

 (9月25日の予定だったが10月2日行われた)

『この海を越えれば、わたしは』ローレン・ウォーク作 中井はるの・中井川玲子訳 さ・え・ら書房 日時:10月2日13時30分~16時30分 

 作者は、1959年生まれのアメリカ人女性。本作は、『その年、わたしは噓をおぼえた』に続く第2作で、2作とも、アメリカの権威ある賞を受賞している。この物語は、1925年、アメリカマサチューセッツ州ウッズホール沖エリザベス諸島を舞台にした史実に基づいたフィクションである。主人公クロウは、生後間もなくオッシュの住む小島に流れ着き、育てられた。近くに住むミス・マギーも二人の世話を焼いた。クロウは、豊かで厳しい自然の中ですくすく成長した。しかし、島の人々はクロウを避けた。それは、クロウがペニキース島(ハンセン病患者の隔離病棟があった)から流されて来たと思われていたからだ。12才になったクロウは、自分はどこから流されて来たのか知ろうと決意する。そして、オッシュとマギーとともに、ペニキース島に渡って、ハンセン病患者であった父母の死や孤児院に送られた兄の存在を知る。その後も、クロウは様々な困難に遭いながら兄を捜すが、結局見つからなかった。これらの過程を経て、クロウとオッシュ、マギーの3人は絆を深め、それぞれの存在の大切さを知り、今を大事に生きることを確信する。テーマについては、活発な意見交換がなされ、以下の3つにまとまった。①ハンセン病の島を舞台にした、12才になったクロウの「自分とは何者か」を知ろうとする、自分さがしである。②この物語の根底には、「幸せとは、自分たちが望む場所にいて、望むような生き方をすることだ」という、作者のハンセン病差別に対する思いがある。③全体を通して、クロウに寄り添うオッシュとマギーの深い愛情が描かれ、血のつながらなくても温かい人間関係を築くことができると伝えている。今日的な状況では、新聞資料などから今もハンセン病問題は続いていることや、コロナ禍の現在、似たような差別が起きていることも話し合われた。その後、小山さんの「注目を集めたのはこの本です」のアニマシオンが行われた。

                                                   (記録 栗原圭子)

89回銀読書会レポート

テキスト『フラミンゴボーイ』

 日時:8月28日(金)14~16:30

 会場:日比谷図書館

 

 コロナ禍で会場使用や集会開催が厳しく規制されているなかだが、日比谷図書館を会場に、読書会を再開し2回目となる。やはり、顔を合わせて話しあえることは喜びであり、信頼感も深くなるものだと思う。

 作者マイケル・モーパーゴは、戦争のもたらすものはなにかという問いを創作のテーマとしており、人間描写の深い作家だ。『フラミンゴボーイ』の舞台は、南フランスのローヌ川河口に広がる湿地帯カマルグで、フラミンゴの繁殖地として知られる。こんな「片田舎」にも戦争は押し寄せ、町の人々を変えてしまう。ドイツがフランスを占領し、カマルグにもドイツ兵がやってくると、その取り巻きフランス民兵団が住民によって組織され、監視を強める。そこにやってくるロマ(ジプシー)の幌馬車と組み立て式メリーゴーランド(大八車)の家族が迫害を受けるようになる。郊外の農場ファミリーがその家族を受けいれ、一緒に暮らし始めるが、民兵団の迫害はそこにも及び、ロマの両親は収容所に連行されてしまう。幌場所には火を放たれる。その娘ケジアは、農場の息子ロレンゾの機転によって難を逃れる。

 ロレンゾは発達障害をもつが、動物たちをと言葉(意志)を交わすことができ、傷ついた家畜や野鳥たちを治療している。フラミンゴを深く愛し、フラミンゴも彼を愛している。この交流が感動的だ。

 物語はこの南フランスの湿地を描いたゴッホの絵に魅かれて、尋ねてきた少年ヴィンセント18才の語りによって展開されていく。

 さて、テーマは迫害を受けているロマの家族と、発達障害を持つ息子を持つ農場の家族との交流・友情・信頼が軸になっているとともに、自然との深い共感・共存であるとまとまった。同時に、モーパーゴの「戦争とはなにか」「戦争の下で人はどう生きるか」が基調にあると議論された。

 今回から、小山公一さんの提案により、「本の紹介のアニマシオン」が加わった。参加者は五冊ずつ「おすすめの本」を持ち寄る。それに番号札をつける。その番号によって、「書き出しを数行読んでください」「この本を持ってきたわけは何ですか」「この本を読もうとしたきっかけは何ですか」「主人公はどんな人ですか」「最初に思ったことは何ですか」「読み終えて思ったことは何ですか」について、答えていく。その後、全員が「読んでみたい本」の番号を投票する。最高得点者はあらためて本の紹介をする。

 という方法である。新しい刺激が加わって、読書会がさらに楽しくなった。次回9月テキストは『この海を越えれば、わたしは』。第90回となる。

『フラミンゴボーイ』マイケル・モーパーゴ作、杉田七重訳。小学館2019(記録:岩辺)

7月読書会報告

『むこう岸』

安田夏菜著 講談社 2018年12月

(副本として『漂う子』丸山正樹著 文春文庫 2019年11月)

7月10日 日比谷図書文化館 参加者10名

物語は中学3年生の二人が交互に語る形式で進められる。医師の家庭に育ち、中学受験で入った高校で授業についていけず公立校に転校した和真。転校先の中学の同級生の樹希(たつき)。樹希はパニック障害の母と保育園に通う妹と三人、生活保護を受けて暮らしている。

和真はひょんなことから樹希が出入りしている「カフェ・居場所」にいくことになるが、和真の秘密を知った樹希から、「居場所」に出入りしている渡辺アベルの勉強を見てやることを約束させられる。和真は、過去の体験や環境から生活レベルの低い人への苦手意識があり、樹希には、恵まれた家で育ってきた少年の甘えが許せないという気持ちがあった。

樹希がそんな気持ちを爆発させたある日の会話をきっかけに、和真は生活保護について調べ始める。いくつかの事件や大人の無理解に遭遇し打ちのめされもするが、周辺で手を貸す大人たちもあり、新しい未来に向かっていく子どもたちが描かれている。

〔話し合い〕

テーマについて、いろいろな意見が出た。「生活保護法は差別をしないということを題材に、人権の視点から、自分らしくいられる場というのがテーマ」という担当者の発言をもとに、

「居場所がないと生きていけないということで、居場所」「自分らしい居場所と同時に、互いのむこう岸をこえる理解する場所が必要ということでは」など。読書会では毎回「今日の状況・身近な経験」「印象的な場面やフレーズ」なども話し合われるが、今回は特に生活保護(法)に関することが多かった。居場所がないこと、(貧困は)自己責任と思っている人が多いなどは今の状況そのもの。保護のことをきちんと理解していない役所の担当者。また、生活保護は人間の権利として当然と思いながらも、具体的にはよく知らないでいる私たち。とんでもない状況に置かれている子どもたちを何とかしようとして活動している人への敬意などが話された。今回はCOVID-19で5か月ぶりの読書会となった。対策のため大きな部屋で離れた席に座り、マスクをしても聞こえるようにマイクを使用。それでも、直接会って話し合える素晴らしさ。次々と発言が続き、文化活動の大切さを感じた会になった。(記録:大谷清美)

 

付記:生活保護法 第一章  第二条 『すべて国民は、この法律の定める要件をみたす限り、この法律による保護を、無差別平等に受けることができる。』

2月 銀読書会『名探偵カッレ城跡の謎』リンドグレーン作 菱木晃子 訳 平澤朋子 絵

(リンドグレーン・コレクション・岩波書店・2019925220日 千代田区立図書館 参加者11

 スウェーデンの夏休みの物語。主人公のカッレは食料雑貨屋の息子で13才。自称「私立探偵」で名探偵に憧れている。夏休みになり親友アンデッシュと隣のパン屋の娘エヴァロッタと共に探偵活動を始める。3人は冒険が大好きで「白バラ軍」を組み、事件を捜して歩くが平穏な町には事件の気配もない。ある日エヴァロッタの家に、母のいとこのエイナルおじさんが逗留する。彼から何かあやしげな匂いを嗅ぎ取ったカッレは、いつかおきる事件のために、男の行動を観察して記録をつけはじめる。そこに不審な2人組がその男を訪ねてきた。この3人は銀行家の家から宝石10万クローネ相当を盗むが、エイナルが持ち逃げし、2人が追ってきたのだ。白バラ3人組は宝石を捜し出すが、逆に捕らえられてしまう。警察が駆けつけ犯人逮捕、3人は救出された。その後も平和なのどかな町の自称「私立探偵」と白バラ軍の探偵活動は続くのだった。白夜の北欧の長い夏休みを朝から晩まで子どもたちが自由に遊び、そして難問題を解決していく様子は、「子どもの本の女王」と呼ばれる作者らしくみごとに描かれており作品世界に魅了される。加えて2019年の新版の発行の新訳者菱木さんのあとがき、平澤さんが挿絵を担当した理由も含め、目を通してほしい。

〈話し合い〉

・のびのびした子どもの姿のすばらしさや共感する仲間の姿が良い。

・作者の育ったスウエーデンの情景や自然の様子も伝わってくる。

・主人公は、洞察力、賢さを人から学んでいる。また正義感があり「ぼくの目標は世の中から悪をなくすこと。正直は一生もの」という言葉が印象深い。

・三人の子どもには夢がある。子どもたちがのびのびしているのは周りの大人が子どもを見守る寛容さがあり子どもを伸ばす大切な要因だが現在の日本は?子どもたちは?

・今どうして名作か?最近新訳や新装版の名作が出版され、読書会でもとりあげてきた。読むと子どもの頃のワクワク感が戻って、改めて名作を見直し、子どもたちに伝えたい。

・最近上映された「リンドグレーン」にも話題が及び作者の個性的な人物像や生き方と作品との関連まで話題がいき、自由で活発な意見が交わされ、和やかで楽しい読書会だった。

〈参考 アスレリッド・リンドグレーンを知るための本〉

『リンドグレーンと少女サラ』アストリッド・リンドグレーン著 サラ・シュワルト著

                    石井登志子 訳 岩波書店 2015・3

『暴力は絶対だめ!』 アストリッド・リンドグレーン著 石井登志子 訳 岩波書店20158

『リンドグレーンの戦争日記』 アストリッド・リンドグレーン著 

石井登志子 訳 岩波書店2017.11

『ピッピの生みの親アストレッド・リンドグレーン』   三瓶恵子著 岩波書店 199911

                                   (記録:増田栄子)

1月 銀読書会『六月の雪』(乃南アサ著 文藝春秋 2018年5月)1月30日(木)

 千代田区立図書館 参加者10名

  契約社員を退職し、新たな生き方を求めていた杉山未来(32歳)の言葉として物語が語られる。家族が福岡の引っ越したため、東京に残った未来と一緒に住んでいる祖母が階段を踏み外して入院する。祖母が生まれ育った台湾に帰りたいというので、未来は、祖母を元気づけるために、台湾の祖母が生まれた家の探しにいくことにする。台湾に行き、父の教え子の李恰華(39歳)、その友だちの洪春霞(30歳)、大学院の学生の楊建智、楊建智の高校の先生の林賢成、に案内をしてもらい、未来は、祖母が住んでいたと思われる家を探し当てる。昔の面影のある家に現在、住んでいる劉呉秀麗、劉慧雯、から台湾の歴史の中で必死に生きてきた女性たちの生き方を知る。

 テーマとして考えられることは、杉山未来自身のこれからの生き方への模索であり、日本や台湾の近現代の歴史の中での庶民の葛藤・苦闘・生き方を語りながら、閉塞感が充満し、生きる意欲を喪失している、未来をはじめとする現代の若者たち、とりわけ女性たちの再生への希望を描いたのではないかという意見が出された。

 物語の舞台は、台湾である。作者乃南アサは、東日本大震災に際して、200億円の義援金を出した台湾に驚き、40数回にわたって、台湾を訪れたそうだ。台湾には、日本の建物が今でも残っていて、日本文化に親しみを持つ人が多い。作者の綿密な取材に基づいてこの小説が書かれている。日清戦争の後、1895年(明治28年)4月17日、下関で締結された日清講和条約で台湾が日本に割譲され、日本の植民地支配がはじまる。